ジョブ型人材マネジメントを推進する
NECが取り組む「ジョブマッチング採用」の本質
~新卒から始まる職種確約とカルチャー変革の戦略~
創業125年を超える日本電気株式会社(以下NEC)は、「選ばれる会社(Employer of Choice)」を掲げ、人やカルチャーの変革を進めてきた。その象徴的な取り組みが、新卒採用の「ジョブマッチング採用」だ。配属先を事前に定め、事業と人材を直接結びつけるこの仕組みは、単なる採用手法の変更にとどまらない。評価、育成、キャリア形成までを含めた人事プロセス全体の再設計を前提とする挑戦でもある。
今回、同社でタレント・アクイジションを牽引する大橋康子氏と、株式会社ベネッセi-キャリア代表取締役社長の風間直樹が対談。事業起点の採用戦略やAI時代に見極めるべき「人材の真価」を軸に、これからの人事に求められる役割、採用のあり方を問い直した。


大橋 康子氏
日本電気株式会社 人材組織開発統括部 タレント・アクイジショングループ ディレクター
株式会社リクルートに新卒で入社。営業としてキャリアをスタートし、新卒・中途採用媒体の立ち上げ・制作に関わる。その後、人事採用コンサル・アウトソーシング企業を経てインハウス人事へ転向。LINE株式会社にて中途採用、HRBPリードの経験を積み、2021年より日本電気株式会社に入社。採用全体を統括するディレクターとして活躍している。

風間 直樹
株式会社ベネッセ i-キャリア 代表取締役社長
新卒でベネッセコーポレーションに入社し、高校生の進路・進学支援に携わる。その後、ベネッセ i-キャリアへ異動し、大学のキャリア教育変革、企業の新卒採用支援に携わる。高校・大学・企業と幅広いステージで、学び方・キャリア開発の支援を行い、アセスメントテスト『GPSシリーズ』の事業責任者を務める。2025年より代表取締役社長に就任。
目次
- なぜNECは「ジョブ型」に踏み切ったのか。人事制度を根底から見直した理由
- 配属は人事が決めない。事業と学生を直接つなぐ新卒採用
- 「白地のキャンバス」をどう扱うか。新卒ジョブ型採用の現実解
- 採用が変わると、組織が変わる。学生の主体性がもたらした波及
- 新卒採用が「ハック」される時代、何を見て採用を決めるのか
- 「調達係」からの脱却。「ユニコーン」探しは事業の成長を止める
- 新卒市場を「ワンウェイ」から「循環型」へ。辞めることは裏切りではない
なぜNECは「ジョブ型」に踏み切ったのか。人事制度を根底から見直した理由
風間 NEC様は2025中期経営計画で「選ばれる会社(Employer of Choice)」を掲げ、人やカルチャーの変革に取り組まれています。その柱の一つとして注目されるのがジョブ型人材マネジメントです。まずはこうした取り組みに注力することになった背景についてお伺いできますでしょうか。
大橋氏 背景にあるのは、経営に対する強い危機感でした。かつて「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と呼ばれた時代、NECは就職人気企業ランキングの上位常連でしたが、市場環境の変化や事業構造の転換が進む中で徐々に競争力を失い、2010年代の半ばごろには経営危機に直面したのです。
経営陣が社員との対話集会(タウンホールミーティング)を実施したところ、「大企業病でタコツボ化している」「頑張っても報われない」など、現場からの悲痛な叫びが噴出しました。これを受け経営陣は、これまでのやり方では会社が立ち行かないと考え、カルチャーを根本から変える決断を下すに至ったのです。

風間 具体的にどのように変革を進められたのでしょうか。
大橋氏 最初に着手したのは「自前主義からの脱却」です。それまでのNECは、社内の人材を適材適所で配置するというよりは、その人材を今の場所でどう輝かせるかという考え方が強くありました。ふと経営陣を見渡せば、全員が男性、30年以上NEC一筋のプロパー社員ばかり。阿吽の呼吸で仕事は進みますが、それでは多様性がなく、市場とのズレに気づけません。
加えて、AIやサイバーセキュリティなど急速に進化する領域では、社内に経験者がいないケースもあり、自前での育成だけでは競争に勝つのは困難です。このため、2018年から2019年にかけて、外部からプロフェッショナルを招くキャリア採用へ大きく舵を切りました。
しかし、外部から優秀な人材が入ってきても、年功序列の評価や一律の報酬制度のままでは定着は望めません。採用を変えるだけでなく、評価、報酬、育成、退職など、人事のすべてを変えてきました。こうした一連の取り組みをジョブ型エコシステムと呼んでいます。
配属は人事が決めない。事業と学生を直接つなぐ新卒採用

風間 NEC様はキャリア採用から始まったジョブ型の変革を、新卒採用にも適用し「ジョブマッチング採用」を導入されました。
大橋氏 はい。従来の新卒採用は総合職の一括採用で、配属先は入社後に人事が決定していました。しかし、事業ごとに必要な人材ポートフォリオが明確になり、専門性が求められるようになると人事主導の配属では限界があります。こうした状況を鑑みて人事による配属を廃止し、各事業部門が欲しい人材を提示して、学生が自らの意思でそこに手を挙げる仕組みへと転換しました。学生向けには、職種や事業ごとに検索できる専用ページを設け、各ポジションの内容はジョブディスクリプションとして明示しています。
風間 なるほど。日本でもジョブ型採用を導入する企業が増えていますが、うまくいっている企業とそうでない企業の差は明確です。私が考える成功企業の条件は3つあります。1つ目は「現場感のあるリアルなジョブディスクリプションがあること」、2つ目は「現場の協力体制があること」、3つ目は「入社後の育成や配置に説明責任を持てること」です。NEC様の取り組みが機能しているのは、単なるコース別採用で終わらせず、現場が主体となって採用に関与している点にあると推察されます。入社後のキャリアパスまで含めて学生と対話ができているからこそ、ミスマッチのない採用が実現できているのでしょう。
「白地のキャンバス」をどう扱うか。新卒ジョブ型採用の現実解
大橋氏 ただ、正直なところ、胸を張って完璧にできていると言い切れるのかというと、まだ道半ばというのが実情です。新卒の学生は、即戦力のスキルを持つ中途人材とは異なり、何色にも染まっていない「白地のキャンバス」のような存在です。そうした学生に対して、ジョブを明確にして採用するということ自体、ある種の矛盾を孕んでいます。
風間 確かに実務経験のない学生に対し、完全なスキルマッチを求めるのは困難です。一方で、NEC様では約800名の新卒採用で、70%を「部門×職種別」で採用されていると伺いました。どのようにマッチングを図っているのでしょうか。
大橋氏 現時点での完成されたスキルよりも、「営業で一流になりたい」「事業企画として成長したい」などの意志、つまりWillを持って手を挙げることを最重視しています
入社後については、基礎研修を終えて現場での仕事が始まってからは一律の定期研修はほぼなく、自分に必要な専門性を磨けるアラカルト型の研修体系を用意しています。とはいえ、挑戦してみた結果、違和感を覚えるケースもあるでしょう。そうした場合に備え、選択を見直せる仕組みも用意しています。代表的なのが、社内公募制度「NEC Growth Careers」です。現在は通年で公募を行っており、入社後も社内でジョブチェンジが可能です。さらに、NECライフキャリア社を設立し、キャリアに迷った際に専門家へ相談できる体制も整えました。
また、配属先まで決めきれない学生のために、職種のみを定め、配属部門は委ねる「部門フリー」枠も約30%残しています。
採用が変わると、組織が変わる。学生の主体性がもたらした波及

風間 ジョブマッチング採用を導入されてから、入社する学生や現場にはどのような変化があったでしょうか。
大橋氏 学生の質、特に主体性が大きく変わりました。自分で選んで入ってきているので、モチベーションが非常に高いのです。象徴的なのが「Leap Next(リープネクスト)」という入社1~3年目の若手有志団体です。「会社をもっとこう変えたい」と自発的に声を上げ、内定者フォローやインターンシップの改善などを提案してくれたりしています。また、人事部門による研修の一つとして新入社員と経営幹部で実施している「リバースメンタリング」も手挙げ制で募集し、250名という多くの新入社員が応募しています。
風間 若手が経営幹部に提言する場があるというのは、双方にとって大きな刺激になりそうです。受け入れる側の意識も変化したのではないでしょうか。
大橋氏 経営幹部たちも、優秀な若手と直接対話することで「今どきの若手はこんなこともできるのか」と驚き、期待値を再認識しています。現場のマネージャーたちも、人事から割り当てられるのではなく「自分たちの組織に誰を入れるか」を真剣に考えるようになりました。採用というプロセスを通じて、学生だけでなく、受け入れる側の意識も大きく変わってきていると感じています。
新卒採用が「ハック」される時代、何を見て採用を決めるのか
風間 NEC様では学生の主体性を引き出すことに成功されています。しかし、採用市場全体を見渡すと状況は複雑です。売り手市場で獲得難易度が上がっていることに加え、生成AIやSNSの発達でエントリーシートや面接対策が高度化し、就職活動がハックされている側面があります。表面的なテクニックで武装されると学生間の個体差が見えにくくなり、従来の「量を集めて質を担保する」という手法はもはや機能不全に陥っていると言わざるを得ません。
これからの採用では、企業が欲しい人材像を深く開示して、対話を通じて互いに共鳴し合い、確認し合うプロセスが不可欠だと感じています
大橋氏 おっしゃる通り、表面的なスキルや経験だけを見ていては、本質的なマッチングは難しいのが現状です。技術の進化が激しい現代では、特定のスキルや過去の成功体験はすぐに陳腐化してしまいます。
NECが重視しているのは、変化にどう向き合うかという姿勢です。未知の技術や環境に直面した際、「わからない」で終わらせず、「どう使えるのか」「仕組みはどうなっているのか」と面白がりながら考えられる知的好奇心を、人材のOSとして捉えています。
採用の際はNECグループ共通の行動基準「Code of Values」への共感を必須としますが、その上に乗る個性やスキルについては上限を設けません。とことん技術が好きな方でも、起業経験がある方でもいい。ベースさえ合致していれば、どれだけ尖っていても歓迎します。このため、選考では、価値観の奥にある動機や、物事をどのように捉え判断してきたのかという思考のプロセスを、対話を通じて見るようにしています。
風間 これからの時代、人材の見極めの重要性はますます高まっていきます。中でも、重視しているのが思考力です。他方で、「思考力」は非認知能力であり、これまで定量的に可視化することが難しいとされてきました
しかし、当社はアセスメントの研究を通じて、ビジネスの土台となる「思考力」を「抽象化する」「構造化する」「推論する」など19の要素に分解することで可視化できることもわかってきました。
生成AIの台頭で、情報を素早く処理する領域はAIに代替されます。これからの人間に求められるのは、AIのアウトプットを活用しながら、正解のない問いに対して問題解決を成し遂げることです。チームで合意形成を図り、納得解を導き出し、意思決定を行って責任を取る。この問題解決のプロセスを根底で支えるのが思考力であり、変化の激しい時代に最も重要なポータブルスキルになると考えています。
大橋氏 環境が激変しており、過去の成功体験はもはや資産になりません。だからこそ、変化への対応がより重要になってきます。
採用を行っていると、どうしてもテクニカルスキルに目がいきがちですが、これまで身に付けたスキルや経験といった表層の話ではなく、価値観や考え方、モチベーションの源泉など土台となる「見えにくい力」を見ていくことがこれからの時代は大事になってきますよね。
「調達係」からの脱却。「ユニコーン」探しは事業の成長を止める

風間 ここまで採用の手法や見極めについて伺ってきました。あわせて、採用した人材をどう活かし、事業に貢献させるかも人事の重要な責務です。これからの時代、人事にはどのような役割が求められるとお考えでしょうか。
大橋氏 一昔前の人事であれば、現場から言われた通りに人材を集め引き渡すことがゴールだったかもしれません。しかし、これからの人事は単なる調達係であってはならないと考えています。現場が作成したジョブディスクリプションをそのまま受け取るのではなく、「その要件を満たす人材は市場に存在するのか」、あるいは「市場に存在しないユニコーンを探すような無理な要件になっていないか」を人事の視点で問いかける必要があります。場合によっては「そのスキルを持った人は採用市場にはいないので、新卒でポテンシャル採用をして3年かけて育てましょう」などと提案し、事業成長のために現場と伴走することが求められます。
風間 人事がうまくいかないケースの多くは、人事が「人事部屋」に閉じこもっていることに起因します。経営が目指す方向性、現場が抱える課題、学生や求職者の心情。それぞれのリアリティには必ずズレが生じます。人事はこのズレを肌感覚で理解し、施策に落とし込まなければなりません。そのためには、採用人数など表面的なKPIに縛られるのではなく、本質に立ち返る勇気を持つべきでしょう。
大橋氏 「その採用が本当に事業成長(KGI)につながっているのか」を考えないといけません。「800人採用しました」という数字を達成しても、その結果会社がどうなったのかが問われなければ意味がない。万能な制度が存在しないからこそ、現場と対話し、常に軌道修正し続ける姿勢が必要です。
新卒市場を「ワンウェイ」から「循環型」へ。辞めることは裏切りではない
風間 最後に、少子化が進む中で今後の新卒採用市場をどう展望されているか、NEC様のビジョンも含めてお聞かせください。
大橋氏 確かに少子化で学生の絶対数は減ります。採用難易度が上がるという見方はあるでしょう。ただ、私はそれほど悲観していません。企業側も、AIの活用や業務効率化で、かつてのような大量のエントリークラスへのニーズは減っていくはずです。求める数と供給される数のバランスは、人口動態に合わせて案外取れてくるのではないかと見ています。
私が変えたいのは、現在の新卒市場が一度きりのワンウェイ(一方通行)の構造になっている点です。ビジネスの世界では、一度取引が終わっても再び顧客になることは当たり前です。採用も同様に、循環するものであるべきだと考えています。

風間 循環を作るためには、企業と学生、双方の意識変革が不可欠です。
大橋氏 NECへの入社はゴールでも何でもありません。キャリアのファーストステップです。新卒でNECに入社した人が、別のやりたいことを見つけて転職したとしても、裏切りではありません。外の世界で経験を積み、「やっぱりNECで面白いことがやりたい」と思ったら戻ってくればいい。その上で、新卒も中途も、アルムナイも含めた循環型の市場を作っていくことが、これからの採用のあり方だと確信しています。
風間 「辞めることは裏切りではない」という言葉は、学生やキャリアに悩む社会人にとって、非常に勇気づけられるメッセージです。その循環を実現するためには、私たちも「学ぶこと」と「働くこと」を滑らかに接続し、学生が自身の市場価値を高められる社会を作っていかなければなりません。本日は貴重なお話をありがとうございました。
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取材・制作:HRプロ編集部
出典:HRプロ(https://www.hrpro.co.jp/series_detail.php?t_no=4604)

