ジョブ型人材マネジメントを推進する
富士通が目指す、採用のアップデート
~活躍人材の見極めに求められる「思考力×実行力」の可能性に迫る~

富士通株式会社では、ジョブ型の人材マネジメントへの変革を進めるとともに、社内での人材流動化を推し進めて、ビジネス環境の急速な変化や事業モデルの再構築に対応しようとしています。

今回、ベネッセ i-キャリアは、代表の風間直樹を聞き手とし、富士通で人事部門をリードする阿萬野晋氏にインタビューを実施。取り組みの背景や具体的な施策、そして表れ始めている効果はもちろん、ジョブ型の人材マネジメントへの変革にともなって変化が起きている採用領域の話に至るまで、お伺いしました。(以下敬称略)

阿萬野 晋氏

阿萬野 晋氏

富士通株式会社 Employee Success 本部長
1992年富士通に入社。事業部門担当人事を経て、04年以降は幹部社員、一般社員制度企画を主導。09年から4年間、Fujitsu Asia Regional HR Directorとしてシンガポールに駐在。帰任以降はグローバル人事やプロダクト事業担当人事を統括し、20年には労政部長として新たな働き方「Work Life Shift」を含む労務政策全体を統括。21年4月より現職にて、ジョブ型人材マネジメントをベースとした採用から育成、キャリアオーナーシップやポスティングなどの成長支援、人事制度企画、ウェルビーイング推進を主管。

風間 直樹

風間 直樹

株式会社ベネッセ i-キャリア 代表取締役社長
新卒でベネッセコーポレーションに入社し、高校生の進路・進学支援に携わる。その後、ベネッセ i-キャリアへ異動し、大学のキャリア教育変革、企業の新卒採用支援に携わる。高校・大学・企業と幅広いステージで、学び方・キャリア開発の支援を行い、アセスメントテスト『GPSシリーズ』の事業責任者を務める。2025年より代表取締役社長に就任。

目次

  1. 未来を見据えた事業モデル転換。鍵となった「適材適所」から「適所適材」への変革
  2. ジョブポスティングの推進。施策の一貫性+社員の自律性が人材の流動化を活性化させる
  3. 新卒採用でも、即戦力人材の獲得を目指す
  4. 社員に求められるのは思考する力と行動力
  5. 企業人事、未来を担う学生へのメッセージ

未来を見据えた事業モデル転換。鍵となった「適材適所」から「適所適材」への変革

風間 御社は2020年頃からジョブ型の人材マネジメントへの変革を進め、注目を集めておられます。この施策の導入に至った背景や実現したかったことについて、まずはお聞かせください。

阿萬野 2019年、代表取締役社長に就任した時田は「イノベーションによって社会に信頼をもたらし世界をより持続可能にしていく」という企業パーパスを打ち出し、さらに2030年あるいは2050年といった未来を見据えて“私たちのありたい姿”を描きました。

その“私たちのありたい姿”へと近づくためには、全社的な改革が必要でした。1つは事業モデルの変革。富士通をメーカー、あるいはシステム・インテグレーターと捉えていらっしゃる方は多いと思いますが、現在は「世界が抱える社会課題の解決をクロスインダストリーでの取り組みで推進する」という事業モデル=『Fujitsu Uvance』へと舵を切っています。

阿萬野 晋氏

事業モデルが変わるのですから、組織も、仕組みも、人の行動も変わらなければなりません。人の行動変容を起こすための仕組みとして導入した施策の1つがジョブ型の人材マネジメントです。

風間 社内のルールや各種プロセスの変革をスタートさせて、約5年。成果は表れているのでしょうか?

阿萬野 誰しも変化は怖いものですが、富士通がサステナブルに成長するためには不可欠。「挑戦」「信頼」「共感」という富士通が大切にする価値観のもとに従業員がそれぞれで取り組みを進めた結果、業務プロセスをより良い方向に変えることは“当たり前”になりつつあると感じています。働き方も劇的に変化し、いまやリモートワークが8割。人材の流動化を促す仕組みも機能し、「われわれは変化できるんだ」と実感しているところです。

風間 人材の流動化を促す具体的な仕組みについて教えていただけますか。

阿萬野 新卒一括採用、終身雇用、年功序列、ピラミッド型の組織構造、時間をかけて人を育てながらいいものを作っていく…。といった日本の伝統的なマネジメントスタイルが、平成から令和にかけて社会環境の変化や置かれている事業の状況によって、一気に変わることになりました。比較的変化の少ない時代であれば上手く機能していた手法が、1分1秒単位で世の中が劇的に変わり、社会やお客様のニーズも常に変化している現代では従来の人材マネジメントの仕組みでは適用しなくなってきているのです。

必要なのは「この人材をどこに配置するか」という“適材適所”ではなく、まずは前述した『Fujitsu Uvance』のような事業モデルがあり、その事業を進めていくための組織や仕事が明確化され、そこに適した人を配置すること、すなわち“適所適材”です。

また、あるビジネスがいつまで続くのか、“適所”がいつまであるのか、それは社会やお客様から何を求められているのか次第。不要になる仕事も新しく生まれる仕事も出てくるでしょう。人の動き方を硬直化させず、常に流動させるための仕組みが必要でした。

社会やお客様のイシュー起点でビジネスが生まれ、そのビジネスごとに組織のありようや人材マネジメントの在り方も異なります。そこで各事業部門が自ら適切な組織を設計し、人材を採用・育成・配置して事業を行い、評価・処遇するという、いわば事業部門起点の人材マネジメントへと変革してまいりました。

それ以前は、人事が採用した人材を各部門に配置する、キャリア採用の人数はあらかじめ決まっていて想定以上に人が減った部署への配慮もなし、といった仕組みでした。いまは現場への権限移譲を進め、必要な人材、ポジションやロールを自分たちで決め、それぞれの“適所”に対する“適材”を社内外から獲得・補充する、というスタイルになっています。

ジョブポスティングの推進。施策の一貫性+社員の自律性が人材の流動化を活性化させる

風間 直樹

風間 人材流動化のための施策として「ジョブポスティング」、いわゆる手上げ制の社内公募が上手く機能していると伺っています。3年間で2.6万人が手を挙げ、うち1万人が実際に異動したそうですね。

阿萬野 人事制度には、その周辺の仕組みも含めての“一貫性”が必要です。「ジョブ型」とか「適所適材」といっておきながら、ポジションがない、異動の機会がない、ということでは機能しません。

「ジョブポスティング」では海外も含めて常時1,000ポジションくらいが提示されていて、会社として自ら手を挙げることを推奨し、いわば社内での人材獲得競争を“是”としています。やる気のある人が活躍できる状態、「やりたくないのにそこにいる人」がいなくなる環境を作っているわけです。いまも毎年コンスタントに7,500人くらいが手を挙げて2,000人程度が異動しています。

それと同時に、将来の経営幹部候補人材を会社が意図的に重要なポジションへアサインして成長を促進するような施策や、異動した先でパフォーマンスが上がらなかった時の育成プログラム、グループ外への転職希望者を支援する制度など、さまざまな仕組みも用意してあります。

こうした仕組みに対して、社員目線で見た場合に何が必要かといえば、キャリアオーナーシップです。自分で考え自分で動く人たちの集団でないと人材の流動化は実現しませんし、なにより自分自身のウェルビーイングも実現しません。

従前は会社の指示に従って実績をあげれば昇進できたかも知れないけれど、それだけでは成り立たなくなりました。会社や上司もしっかりサポートしますが、自分の将来や成長は自分で考えて行動してください。「このポジションに就きたい」と手を挙げないと、チャンスを逃してしまいますよ。そんな“健全な危機感”を持ちながら、キャリアオーナーシップを発揮するよう促しました。

新卒採用でも、即戦力人材の獲得を目指す

風間 内部労働力の活性化といえる「ジョブポスティング」に加え、外部労働力の獲得も重要となるはずです。ジョブ型の人材マネジメントへの変革にともない、採用にも変化が生じたのでしょうか。

阿萬野 新卒一括採用から時間をかけて人材を育てるという既存のモデルには、それなりに意義があり、効果も効率性もあったと思います。しかしジョブ型・適所適材という考え方に基づけば、時間をかけて育てるというよりはポジションに相応しい即戦力人材を積極的に採用していく、ということになります。

結果的にキャリア採用が大幅に増え、特にこれまで富士通がやっていなかった事業領域では、新たに必要となるスキル・知見・経験の持ち主を外から獲得することが当たり前にもなりました。事業部門への権限移譲を進めたこともあり、スムーズなキャリア採用が実現し、いまやキャリア採用の数が新卒採用を逆転した部門もあります。

もちろん新卒採用も続けていますが、これまでのような一括採用・一括教育・一律処遇では時代の変化に対応できませんし、ジョブ型の人材マネジメントや適所適材の文脈にも合致しなくなっていきます。富士通という会社への入社ではなく、事業モデルに必要とされる職務にマッチする方を採用するジョブマッチング主体へと変革していきます。

風間 御社はインターンシップにも注力されていますね。

阿萬野 いきなり新卒社員に即戦力というのは難しいので、長期のインターンシップの段階でジョブマッチを考慮にいれ、リアルな職務や働き方を体験・体感することで、学生と職場相互の見極めを事業部門ごとにやってもらおう、というわけです。これまで配属されるか不明だった事業部門はインターンシップに手間暇をかけることが少なかったのですが、今では大幅な有償インターンシップの受け入れが現場で進んでいます。

風間 弊社は「まなぶとはたらくをつなぐ」をコーポレートスローガンとして掲げています。学生の皆さんが「働く」を知ることで、研究活動の中身やスピードなど「学ぶ」の質が変わるという場面を何回も目撃してきました。企業がこういう機会を提供していくことは社会的な意義が大きいと感じます。

阿萬野 経験・体験に勝るものはありません。参加する学生にとっても個々のジョブのイメージが明確になり、入社までに身につけなければならないスキルを想像できることが、インターンシップの良さですね。いまの自分とジョブとのギャップを埋められれば、早期活躍にもつながると思います。

風間 それは、いまいる社員の方々にもいえることですね。「ジョブポスティング」のほかにも、期間限定で異なる業務を経験できる「Jobチャレ!!」、異動なしで希望するプロジェクトに参加できる「Assign Me」といった仕組みがあり、次のキャリアに向けて学んでいることを試す機会が用意されています。こうした“一貫性”ある施策が、社員の活躍を後押ししているのでしょう。

阿萬野 自分の将来を自分で考え、『Udemy Business』のようなラーニングプラットフォームで自ら積極的に学ぶ人は増えています。まさにキャリアオーナーシップを発揮してくれているわけです。

社員に求められるのは思考する力と行動力

風間 ジョブ型の人材マネジメントへの変革によって、新卒採用でも、ジョブディスクリプションに基づいたスキルやポテンシャルの見極めが重要になってくると思いますが、新卒の採用基準に変化は生じてくるのでしょうか。

阿萬野 将来の活躍を考えれば、スキルや専門性に加えてポテンシャルという要素も重要で、インタビューや過去の経験などをもとに確認しています。人材そのものに関する基準が大きく変わったわけではないと思います。

風間 ポテンシャルに関して、われわれは1つのピラミッドモデルを描いています。頂点には「成果」があり、その下には「行動」が、行動のベースには「知識・スキル」がある。ここまでがジョブに紐づいた事業・職業の固有スキルといえます。

この事業・職業固有のスキルの土台にはポータブルスキルがあって、それは“問題解決に向かうマインド”のような「パーソナリティ」であり、そのベースには「思考力」がある。「思考力」はハードスキルとソフトスキルをつなぐ役割を果たしているという研究結果もあり、極めて重要な能力・ポテンシャルです。知識をもとに課題を解決する、相手の感情をくみ取ってコミュニケーションを図る、アンラーンして変化に対応する、それらすべてに「思考力」というエンジンが必要だと考えています。

阿萬野 「思考力」という点でいえば、複数のお客様をつなげてクロスインダストリーで社会課題の解決を目指す『Fujitsu Uvance』では“問いの立て方”が重要です。何かの事象を「あれが問題だ」と表出しているものだけを捉えるのではなく、どこにどんな問題が起こり得るのか、本来解決すべきイシューは何かを考え、さまざまな視点からメソッドを使って解決策を生み出していく力が求められるわけです。

思考の流れを自分たちでデザインしていく「デザインシンキング」と、アイデアをシステムとして実装していくための「システムシンキング」の双方を身につけていかなければならないと感じています。

風間 そうした「思考力」を可視化するスキルアセスメントとして多くの企業にご活用していただいているのが、弊社の『GPS- Business』です。

『GPS- Business』は採用の面接前に活用されることが多く、これまでの適性検査の代替として活用されています。思考力や問題解決力を面接で見極めようとしても、どうしても面接官によるバラツキが生じてしまいますが、その点で『GPS- Business』は実戦的な思考力を短時間かつ客観的に評価できるテストとして高く評価していただいています。

また、採用領域だけでなく、入社後の能力開発での活用も進んできております。こうしたアセスメントによってスキルを可視化することや、テスト結果を自己理解促進や入社後の能力開発に役立てたりすることについて、考えをお聞かせいただけますか。

阿萬野 「思考力」が必要な基本的要素ではあることは確かですから、こういうアセスメントは面白いと思います。加えて、「考えたことを行動に移す」というように、思考が行動に現れるかどうかが重要だと思います。

風間 私も同感でして、仮に思考力が高かったとしても、問題解決に向けて行動に移すことができなければ、ビジネスとしての価値は生まれないと思います。そのため、インターンシップで実務経験をさせ、行動プロセスやアウトプットに基づいて、評価をしていくことは、ポテンシャルを見抜いていくためには非常に有効だと考えています。

ただ現実問題として、インターンシップの受入キャパを増やしていくことは限界もあります。そのため、仕事で求められる実践的な資質・能力を評価する『GPS-Business』のようなアセスメントを利用して、問題を解決するための思考力や行動・マインドを多面的にかつ、効率的に評価できる選考プロセスの構築が、インターンシップを強化する際には重要だと考えます。

企業人事、未来を担う学生へのメッセージ

風間 最後に、試行錯誤しながら組織の変革に取り組んでおられる立場から、これから人事の仕事はどうあるべきか、また学生はどのような意識を持つべきか、メッセージをお願いします。

阿萬野 私たちも正解を持っているわけではないのでおこがましいのですが、お客様に商品やサービスを提供していくにあたって、その源泉が“人”であることは間違いありません。そして、人という資本を生かすためには、経営戦略と人材戦略が連動し、施策につながりがあること、つまり“一貫性”が大切です。なぜその施策が必要か、納得感があり、ストーリーとして語れること、ナラティブであることが重要なのです。

また仕組みや制度を作ったとして、それを機能させるのは個々の社員。社員一人ひとりがキャリアオーナーシップを育まなければなりません。そして、現場にいる上司たちが社員の成長を支援することが必要です。

その重要性をわかりやすく示しながら、事業部門のパートナーとして、社員一人ひとりのパートナーとして、彼らを支援していくことが人事の役割になっていくのかもしれません。

学生の皆さんに対しては「どう生きるのか決めるのはあなた。時間はたっぷりある。準備はできるので生き急ぐ必要はない」と申し上げましょう。

ただ、なるべく早い段階で自分のキャリアを見つめることで選択肢は増えます。またインターンシップなどを経験すれば、その仕事が自分にフィットするかどうか確認できます。飛び込んでいく勇気を持ち、チャレンジと体験を積み重ねることは自信にもつながる。そういう「行動を起こす力」が、とにかく大切です。

風間 戦略と施策に一貫性を持たせる意識や施策の必要性や納得感を浸透させる働きかけ、仕組み・制度を機能させるための現場支援など、人事に求められる役割はますます変化していきますね。またはやく動き出して経験を重ねること、自信を培うこと、自己認識から学びにつなげることは、学生に与えられた権利といえるのかもしれません。本日はありがとうございました。