学部を横断し知識を集約・融合できる
基盤教育の実現
未来を見据えエビデンスベースで進める教学改革

教学改善

田中 マキ子学長

学長補佐(基盤教育担当)

池田 史子教授

ポイント

  • 旧来的な共通教育では変化の激しい時代に求められるコンピテンシーを育成できないとして、カリキュラムを一から見直し、新しい“基盤教育”へと再編。
  • 基盤教育全体を総括する必修科目として「やまぐち未来デザインプロジェクト」を新設。学部学科を横断したプロジェクト型の学修を取り入れる。
  • 大規模な改革だからこそ、効果測定が必須。基盤教育が目標とする人物像と測れる力の重なりが強かったGPS-Academicを導入し、旧カリキュラムと成果を比較する。

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01

大学の紹介

山口県内唯一の「県立」大学。国際文化学部、社会福祉学部、看護栄養学部の3学部を抱える。2022年度にカリキュラム改革を行い、基盤教育を再整理。学科を横断し、開かれた社会の課題へとチームで向き合う科目「やまぐち未来デザインプロジェクト」を設けた。また、「大学・高専機能強化支援事業」にも採択されており、2025年度には、この枠組みの中で国際文化学部に「情報社会学科」を新設する予定。そのほか、「地域活性化人材育成支援事業(SPARC)」に採択され文系DX人材を育成するなど、教学改革を力強く進めている。上記のカリキュラム改革の中で、効果測定に活用されたのがGPS-Academicだ。改革の中心を担った田中マキ子学長と学長補佐(基盤教育担当)池田史子教授に、基盤教育を改革した背景や具体的な内容、なぜGPS-Academicを効果測定に使われたのか、お話を伺った。

※所属・役職はインタビュー当時(2023年12月4日)のもの

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02

お取り組みの全体像

貴学は2022年度に、共通教育科目を「基盤教育」へと改革しています。
このカリキュラム改革の全体像をお聞かせいただけますか。

池田先生:まず、「基盤教育」とは、文字通り、本学の5つの学科すべてに共通した、学びの土台をつくる教育課程と位置づけています(図 1)。新カリキュラムのポイントは、コンピテンシー型のカリキュラムであること。従来の共通教育科目は「本学の建学の理念にもとづき」編成されてはいたものの、育成したい人材目標は明確に設定されておらず、専門科目を学ぶうえで必要な「知識を得る」ための科目群(科学基礎科学群など)と科目(社会学、経済学など)だけが設定されていました。あくまで科目ありき、だったわけです。
昨今様々なところで言われているとおり、知識だけ身につけたのでは、この変化の激しい時代を乗り越えられる人材とは言えません。そこで、新カリキュラムでは、まず、基盤教育を通して育成したい人材像として、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等の能力」「主体性をもって多様な人々と協働して学ぶ態度」の3つを設定し、この3つの人材像に紐づく形で新しい科目群と科目を設けました。例えば、「I群 生命・生活・人生を探究する科目」には「ライフデザイン」「生命と倫理」「科学と社会」といった、単一の知識ではなく、複合的な学びを得られる科目群と科目を厳選して並べています。

2022年度から新しく「基盤教育」を設置

2022年度から新しく「基盤教育」を設置

図1:2022 年度設置「基盤教育」イメージ

人材育成目標はどのように決められたのですか。

池田先生:社会人基礎力、OECD Education2030 に記載されている項目を洗い出して、学力の3要素に重ねました。ベースはあくまで学力の 3 要素です。学生や保護者、受験生、高校の先生方にとっても、身近でわかりやすいだろうと考えたからです。

新カリキュラムの目玉が、必修の「やまぐち未来デザインプロジェクト」と伺っています。
どのような科目でしょうか。

池田先生:基盤教育は様々な学問の要素を、複合的に学びます。そのエッセンスを詰め込み、基盤教育全体を統合する科目が「やまぐち未来デザインプロジェクト」(図2)です。「やまぐち未来デザインプロジェクト」は、1年次の通年必修科目です。前期はこれからの人口減少社会をどうデザインしていけばよいか、各学部学科の特性にあった知識を学びます。後期は学部学科を横断した5人のチームをつくり、人口減少社会をどうデザインすればよいか、ポスター発表を前提とした課題型の学習に取り組みます。中国経済産業局、山口市役所、地元マスコミの方をお呼びして、各グループのアイデアを点検していただく授業も設けています。
田中学長:「やまぐち未来デザインプロジェクト」は、点と線の学びが組み合わさった科目です。前期は、高校までに身につけた知識の点を、さらに専門的な視点で増やす。そして後期は、それらの点を、仲間と一緒に線へとつなげていく。この仲間、つまり自分とは違う専門的な視点を持った人と一緒に学ぶことが特に重要です。様々な視点から課題解決型授業に向き合うことで、「大学で学ぶとは?」という問いへの答えを身につけられる、初年次教育として非常に意義深い科目だと考えています。

「やまぐち未来デザインプロジェクトⅠ・Ⅱ」の全体像

「やまぐち未来デザインプロジェクトⅠ・Ⅱ」の全体像

図2:やまぐち未来デザインプロジェクトI・II全体像
特設サイト URL https://www.yamaguchi-pu.ac.jp/mirai-design/

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03

GPS-Academicの導入と学修成果の可視化

GPS-Academicは、カリキュラム改革の効果測定のために導入されたと伺っています。

池田先生:そのとおりです。カリキュラム改革の成果を検証するには、改革前のデータも必要になりますから、改革の3年ほど前からアセスメントを検討し始めて、改革の1年前にあたる2021年度から実施を始めました。

検証の結果はいかがだったでしょうか。

池田先生:1年生のスコアを見比べてみると、思考力の総合スコアが50を超える上位層が増えました(図3)。一方で、下位層も増え、平均スコアは全体的に下がっていました。総じて、完全に予想通りの結果でした。異なる知識や考え方を持った学生がチームを組むことで、飛び抜けた層ができるはずで、その飛び抜けた層が2年次以降、他の学生を引っ張っていってくれるでしょう。それを補うようにピアサポート制度も設けています。加えて、自由設問の回答を見ていると、新カリキュラムの学生の方が自分をメタ認知できていたり、自己決定ができていたりと、非認知能力の伸びを自覚できています。別の角度で見ても、新カリキュラムの成果がわかります。

思考力総合スコア 分布

思考力総合スコア 分布

図 3:GPS-Academic 評価でのカリキュラムの成果比較

なぜ GPS-Academic を選ばれたのでしょうか。

池田先生:GPS-Academic は、OECD Education2030のフレームを取り入れて設計されています。そして、本学の育成したい人物像も、同じフレームを取り入れています。参照しているものが似ているのですから、導入してミスマッチが起こる可能性は低い。測ってほしいことを、きちんと測ってくれるだろうと考えて導入しました。また、個人的には、「思考力」を測るという点にも惹かれました。もともと自分が受け持つ科目の中で、批判的思考力を身につけるための授業を行っていましたので。
田中学長:学内でももちろん独自の成果指標は持っていますが、学内の指標“だけ”では、社会的な評価とのつながりを持てず、タコツボに陥ってしまうかもしれません。そういった意味でも、全国の大学で活用されているアセスメントを取り入れながら学修成果を可視化することは重要だと思います。

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04

基盤教育の発展と今後の展望

新カリキュラムに移行して2年目ですが、今後の展望をお聞かせください。

池田先生:まず2025年度に、情報社会学科という新しい学科を設ける予定です。理系と文系どちらの要素も持ち合わせた融合型の学科で、社会の課題を“情報”の視点から読み解く学びを展開しようと考えています。専門教育課程では、2・3年次に「プロジェクト演習」を設けています。教育の目的は、文系DX人材の育成。「やまぐち未来デザインプロジェクト」と同様に、複数の学科が混じり合って、かつ大学の外に出ながら学ぶ科目として、先行して開始しました。やはりここでも効果測定が重要になってきますので、現在 GPS-Academicを1年生で2回、3年生で1回受検をしていますが、2024年度からは4年生でも実施し、大学の教育成果、学生の学修成果の可視化を進めます。
田中学長:新しい学科ができることで、学科を横断して学ぶ「やまぐち未来デザインプロジェクト」はより充実するでしょう。「プロジェクト演習」も、新学科の学びが入ることを前提とした科目です。基盤教育と学科の学びが相互に刺激し、さらに深い学びを提供してまいります。

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