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「GPAが低い=求める学生ではない」は真か?
2016年に学域の大規模な改組を行ったことをはじめ、電気通信大学は大学改革へと意欲的に取り組んでいます。様々な改革の成果を検証し、次の改革につなげるというPDCAサイクル構築を担う役割として、2017年にはIR室を設置しました。
2021年度からの入試改革、およびそれと連動する形での教学改革、学修成果の可視化と教育の質保証など、山積する課題を前に、改革を進めるためには、指針となるデータをIR室が中心となって分析していくことが求められています。
例えば入試改革については、思考力や主体性を評価するノウハウが確立できているわけではありません。特に推薦入試については、書類選考・面接に加え、筆記試験を行うなど、手間をかけて審査しているはずなのに、入学者のGPAは一般入試の入学者より決して高いとは言えません。果たして推薦入試は多様な入試の一つとして機能しているのか、2021年度までに推薦・AO入試等の入学者の割合を3割まで増やすという国立大学協会の方針に、学内では不安の声も聞かれ、急ぎ検証する必要がありました。
この検証ためにアセスメントの導入を検討する中で出会ったのがGPS-Academicでした。教育を通して身につける思考力を測れる点は、まさに本学が抱えていた課題とマッチするものでしたし、毎年設問を改定し、測定精度を高めていることも導入の決め手になりました。まずはGPS-Academicを使って現行入試を検証することにしました。
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推薦入試による入学者は創造的思考力の高さが際立つ
GPS-Academicの結果を基に批判的思考力、協働的思考力、創造的思考力の3つについて分析したところ、私たちも驚くほどはっきりした傾向が浮かび上がりました。「一般入試で入った4年生(グラフでは「卒研・一般」と記載)は創造的思考力が他の2つの思考力より高いが、全体として大きな偏りはない。対する推薦入試の学生を見ると、入学前は協働的思考力が低く、4年生(グラフでは「卒研・推薦」と記載)もこれを少し上回るレベルで、一般入試の4年生との差が大きい。入学前の学生と4年生は同じ学生を追跡したデータではないが、4年生を “推薦入試による入学者の4年後の姿” と読み替えると、推薦入試では一般入試に比べて協働的思考力が低い学生が入り、あまり伸びないまま卒業するということになる。一方、批判的思考力は4年生の段階で一般入試の学生よりかなり高い。特筆すべきは創造的思考力で、入学前でも一般入試の4年生と同レベル、卒業時にはさらに伸びて一般入試の学生を大きく上回る」という結果でした。「推薦入試組は学力試験だけでは測りきれない、きらりと光る何かを持っている」。教員のこうした肌感覚が客観的なデータで示され、学生を多面的に捉えることの重要性を再認識しました。
推薦入試の検証によって、アセスメント自体の有効性も証明できました。今後は次に挙げる3つの視点でデータの活用を進めていく予定です。1つは、受検者全体の傾向にもとづく入試改革、教学改革、学生支援の検討です。既にIR室は全学FD研修会で試行調査の結果を報告済み。入学者の特性を考慮した教育のあり方や、選抜方法の見直しを議論する段階に入っています。また推薦入試の意義を学内に共有したことで、2021年度入試から新たに始める総合型選抜についても、多様な学生を確保するための新たな入学者選抜の試みとして定着させていくことができると期待しています。
2つめは、学生自身による活用です。入学時点の思考力や学年ごとの学修成果は本人にわかるよう可視化すべきです。自分の強み、弱み、行動特性を把握し、一つひとつの授業でどう成長したいかを意識させることができるのですから。既にキャリア教育の授業の中で学生に自己分析をさせ、今後の学修計画を立てさせる試みを始めています。
3つめは、個別の配慮や支援を必要とする学生の抽出です。中途退学の予防に関しても、アセスメントのデータは活用できるでしょう。学内の合意形成など、環境の構築に時間がかかりそうですので、他大学の事例を参考にしながら議論を進める予定です。
国立大学法人の第4期中期計画では教育成果に関する数値目標を求められることになると考えています。GPAだけでは示せない成果の可視化も必要です。アセスメントをうまく活用し、学生中心の教学改革を進め、更なる満足度の向上をめざします。