学生の「個」を尊重した「学修者本位」の教学改善に向けて全学部にアセスメントを導入し、学修成果の可視化を推進する

教学改善

学長

大貫進一郎先生

導入目的

  • 大学が掲げる教育理念「自主創造」の実現に向け、学生が身に付けるべき8つの能力を具体的に設定。その伸長度を測るためにGPS-Academicを導入。
  • 全学部で展開することにより、教学マネジメントの土台を構築。学部間・学系間の傾向比較、大学としての強みと課題の把握につなげる。
  • 学修者本位の教学改善を目指し、教育理念の浸透と教職員と学生の協働による改善を推進していく体制を構築していく。

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大学の紹介

日本最大級の規模を誇る総合大学・日本大学。1889年に創立された日本法律学校を前身とし、現在は16学部86学科、短期大学部4学科、通信教育部4学部、大学院19研究科および2つの独立研究科を設置している。16の学部は首都圏を中心にそれぞれキャンパスを展開しており、学生数は約7万人にも上る。2024年2月からニューカッスルキャンパス(オーストラリア)の運用を開始している。

同大学は2023年度からGPS-Academicを全学部に導入した。全学実施の背景と狙い、学修者本位の教育の実現に向けた取り組みについて、2024年4月に新学長に就任した大貫進一郎学長にお話を伺った。

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お取り組みの流れと背景

貴学の教育の特徴と、学修成果の可視化に向けたこれまでの取り組みについてお聞かせください。

大貫学長:本学は2007年から教育理念として「自主創造」を掲げています。これは創立時の理念を現代に受け継ぐもので、「どのような局面にあっても、挑み、乗り越え、あるべき自分を創ろうとする精神や行動」を指しています。「自主創造」の理念は、先行きが不透明な現代において、より重要性を増していくでしょう。

学生がこの「自主創造」を実現するために、本学の教育目標をより具体的に示した「日本大学教育憲章」を2016年に制定しました。ここでは、本学の学生が在学中、および卒業後も発展させていくべき力を「日本大学マインド」として定義、「自主創造」を支える構成要素として、<自ら学ぶ><自ら考える><自ら道をひらく>の3つを設定し、この3つのマインドを実現するための8つの能力を示しています。

8つの能力の伸長を、どのように把握しているのでしょうか?

大貫学長:2018年度から全学生を対象に「学修満足度向上調査」を実施してきました。これは、約70項目におよぶアンケートで、生活面や学修面の実態と合わせて、「8つの能力」が身についたかどうかを聞いています。

学部ごとの傾向を把握したり、自由記述欄の回答をテキストマイニングしたりしてきましたが、やはり主観調査だけでは、本当に学生に「8つの能力」が身についているかの十分な判断材料とはなりません。客観的な指標で学生の成長を測る必要性を感じていたことから、2023年度にGPS-Academicの導入に踏み切りました。

アセスメントテストの中でもGPS-Academicを採用した理由は?

大貫学長:「8つの能力」との親和性が高いと判断したからです。完全に合致しているというわけではありませんが、「思考力」や「姿勢・態度」を詳細な下位項目も含めて測れる点が非常によいですね。たとえば入学者の「思考力」を入試区分別に分析することにより、学生募集の施策にも活かせると考えています。

また、すでに大規模での導入事例があったこと、学内でも先行的に導入していた三軒茶屋キャンパスで一定の評価があったことも後押しになっています。

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GPS-Academicの活用と今後の展望

GPS-Academicの実施は、まだ始まったばかりです。
今後、この結果を教学マネジメントにどう活用していく予定ですか?

大貫学長:全学、学部、授業の3つのレベルに分けてお話させてください。
まずは全学レベルです。本学では教学DX戦略委員会を設置し、教学データを収集・分析する基盤(D-CAS:Data Collection and Analysis System)を2023年7月に構築をしました。D-CASでは、同年度に実施したGPS-Academicのデータと本学が保有している各種データとを掛け合わせ、学部・学科だけでなく入試種別等の属性を導入した多角的な分析が可能になりましたし、成績との関係性についても検討できるようになりましたので、エビデンスに基づいたデータ駆動型による教学マネジメントを実践していきたいと考えております。

つづいて学部レベルです。本学は、学部によってターゲットとする学問系統が異なり、教育のあり方もそれにより異なるため、アセスメント結果を具体的にどのように教学改善に生かしていくのかは、各学部でも検討しています。D-CASを用いて、学部で保有している教学データを多角的に分析し、ディプロマ・ポリシー(学位授与方針)に基づく教育課程の編成・見直しを行い、学修者本位の教育を実践していきます。そのためにも,教育を支えるFD・SD活動は欠かせないと考えております。また、学生の成長を示すことにより、広報資料として活用したいという学部も出てきています。

最後に授業レベルです。各教員は、これまで、授業評価アンケートの結果を中心に授業改善に取り組んできましたが、それに加えて、現在はティーチング・ポートフォリオの導入を検討しています。これにより、教員一人ひとりが教育の質を向上させるために、自らの教育を振り返る機会にしてほしいと考えています。それを踏まえ、GPS-Academicの受検結果から見えてくる学部や学科学生の動態を参考にしながら、授業づくりや授業内容の更新に活かしてほしいです。

貴学では、毎年春に全学年の学生がGPS-Academicを受検する形になっています。
学生本人がこの結果を活用するしくみはございますか?

大貫学長: 本学には、「自主創造の基礎」という全学共通初年次教育科目があります。この中で、自身のキャリアを考える授業があるので、そこで結果を振り返るワークをするなどの活用を検討しています。

2年次以降は、こうした授業は設けていませんが、学年ごとに「この結果を今後の学生生活にどう活用したらよいのか」について解説するフォローアップ動画を配信しています。希望するキャリアの実現に向けて、それぞれが自己の成長を振り返り、今後に向けた具体的な行動を考えるきっかけになることを期待しています。

今後に向けた展望をお聞かせください。

大貫学長:本学では、学生の資質・能力を確認できるGPS-Academicや北米のデファクトスタンダードである学修管理システム(LMS)の全学導入など、学生一人ひとりの学びの実態を把握し、AIの利活用も視野に入れながら、豊かなデータに根差した個別最適化を進めています。

「学修者本位」という観点では、学生の声を教学改善に取り入れる必要もあるでしょう。本学には「学生FD CHAmmit(チャミット)」学生が主体となり、学部教職員と協議・改善活動の取り組みやFDガイドブック「ミライヲツクル Learning Guide」を発行し、教学理念と学生の効果的な学びの在り方などについて学生に周知を図っています。

冒頭で紹介した「日本大学教育憲章」は、学生にとっての目標であると同時に、大学が学生に提供する教育の約束でもあります。本学はPDCAサイクルの「P(計画)」と「D(実行)」を積極的に推し進める一方で、「C(検証)」「A(改善)」に課題がありました。客観的なアセスメントテストを導入することにより、教学マネジメントにおけるPDCAサイクルを「C」「A」まで機能させ、学生に対する教育の約束と、社会に対する責任をしっかり果たしていきたいと考えています。

私たちは、130年を超える歴史と伝統だけでなく、豊かな教育リソースを活かした国内外でも類のない教学の新機軸を拓きながら、本学の教育理念である「自主創造」を体現してまいります。そして、学生一人ひとりと向き合いながら、「自ら学び」「自ら考え」「自ら道をひらく」ことのできる人材、Society 5.0をリードするイノベーション人材をていねいに育成いたします。

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