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大学の紹介
高知大学は1949年設立の国立大学。
大学の第三期中期目標にもある「地域協働による教育」。スーパー・リージョナル(地域)・ユニバーシティというスローガンのもと、高知を軸足とした地域人材の育成に力を注ぐ。学部教育において、その柱となるのが大学独自の多面的評価と質保証の取り組みだ。「10+1の能力」というユニークな能力評価指標や、AP事業における取組み、そして学内でのアセスメントの位置づけについて、教学マネジメントを推進し、アセスメントを管轄する大学教育創造センターの塩崎俊彦特任教授、髙畑貴志准教授、杉田郁代准教授、学務部 川村悠子氏にお話を伺った。
※所属・役職はインタビュー当時(2022年9月29日)のもので掲載。
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取組に至った背景
高知大学のアセスメントに関わる取り組みは、2010年度まで遡る。GPS-Academicの導入に至るまでの経緯を簡単にまとめた。
- 2010~2015年度
第二期中期目標・中期計画の一環として、「課題探求力及び問題解決力を育成するため、全ての学部教育において課題探求・問題解決型の授業科目を開発・実施し、その成果を検証する指標を確立した上で評価し、改善する」を掲げる。
→指標として、学生が自身で能力を評価する「セルフアセスメント」を開発。加えて外部の客観的指標として他社アセスメントを導入。
- 2016~2019年度
文部科学省大学教育再生加速プログラム事業(以下AP事業)「テーマⅤ 卒業時における質保証の取組の強化」採択・実施。
- 2016年度
ディプロマ・ポリシーを「10+1の能力」の枠組みで整理。
→他社アセスメントから、大学生基礎力レポートへアセスメントを切り替え。大学生基礎力レポートのGPS-Academic継承に伴い、GPS-Academicを継続導入。
このように、第二期中期目標・中期計画からAP事業まで一貫して質保証の取り組みの強化を継続しており、アセスメントもその一環(客観的で多面的な評価軸の導入)として導入されている。現在は、セルフアセスメント、学生と教員が同じルーブリックを用いて行うパフォーマンス評価、そしてGPS-Academicによる主に3つの評価をもって、学生の成長の可視化に取り組んでいる。
なお、AP事業を実施し始めたタイミングで、他社アセスメントから大学生基礎力レポートへとアセスメントを切り替えた理由は主に2つ。1つは費用的な問題、もう1つは測定項目と実施学年の問題だ。以前に導入していたアセスメントは、1年生と3年生で測定項目が異なり、特定の能力自体や学年単体での傾向は測れても、個々の学生の「成長」の可視化にはつながっていなかった。そこで、学年間のデータの比較が可能な大学生基礎力レポートに切り替えられた。
大学生基礎力レポートからGPS-Academicへ切り替えたポイントは2つ。1つはオンラインで受検が可能になったこと。コロナ禍で対面での実施が難しくなっていた状況で、オンラインで完結できることは大きなメリットとなった。もう1つは測定項目の違い。アセスメントで測る能力が基礎学力から、思考力、姿勢・態度、経験へと変わる。この点について、基礎学力を測れないかもしれないという危惧とは別に、ある期待を抱いている面もあったそうだ。
「大学生基礎力レポートの実施結果、特に1年生の結果を見ていると、基礎学力はある程度高い水準で維持されていました。そしてGPS-Academicで測定する3つの力は、我々が卒業までの育成目標として掲げている「10+1の能力」のフレームによく収まるものでもありました。入り口の部分、つまりは入試の仕組みの成果がある程度見えているのであれば、入ってからいかに成長しているか、基礎学力とは別の視点で測っていくほうがむしろよいのではないかと考えたのが、ベネッセi-キャリアのアセスメントを継続した理由です。また経験という、他でなかなか測れない測定項目があったのもポジティブに捉えられました(大学教育創造センター センター長 塩崎 俊彦 特任教授)」
塩崎先生の言う「10+1の能力」は、ディプロマ・ポリシーに基づく全学的な能力評価指標のことだ。ディプロマ・ポリシーの分類に基づいて「対課題」「対人」「対自己」それぞれのカテゴリに分けられた10の能力が定められている。加えて、これら10の能力を統合し、周囲に働きかけていく力として、「+1」である「統合・働きかけ」の力が定められている。「10+1の能力」を評価するルーブリックは、大学だけでなく、高知県教育委員会や地域の企業人もメンバーの「多面的評価指標開発研究会」で検討し、地域や企業での評価の仕方も取り入れ、社会で求められる力を反映していることもポイントだ。
学生は1年次からこの「10+1の能力」を意識して過ごす。1年次で卒業後の目標を設定し、その目標は常にe-ポートフォリオ上に表示される。またこのポートフォリオ上にはセルフアセスメントの結果とともにGPS-Academicの結果も表示され、学生自身の振り返りやアドバイザー教員による面談時に活用されることが期待されている。
表3 <各学年における10+1の能力の評価方法とタイミング>
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GPS-Academicの活用と今後の展望
まず現状の活用として、GPS-Academicを「実施しただけ」にならないよう、e-ポートフォリオに結果を掲載するとともに、フォローアップガイダンスやアドバイザー教員と結果の共有を行うリフレクション面談を実施している点が特徴的な取り組みとして上げられる。「テストである以上、学生はどうしても“何点だったか”ばかりを気にしてしまいます。あくまで自分の成長や能力を振り返るためのものですから、ただ点数だけ気にしても意味がありません。そういった意味では教員も同じです。現状は、ベネッセi-キャリアに協力していただいてFDを実施していますが、これからもっと面談や指導に生かしてもらえるよう、学生だけでなく教員にもGPS-Academicの測定項目や考え方を浸透させていく必要があると考えています。」(塩崎 特任教授)
一方で、GPS-Academicに関心を持ち、活用を深めようと独自の取り組みを始める学部が出てきている。例えば医学部は、共用試験CBTの成績とセルフアセスメントの結果のかけ合わせはすでに行っているが、そこにGPS-Academicの結果もかけ合わせ、さらなる成長の可視化ができないかを検討している。また入試区分による違いがあるかも検証中だ。さらに理工学部からはGPS-Academicの結果をもとにした自己PRの作成など、特にキャリア面での活用を進めたいという希望が出ているそうだ。初回の実施から今年が3年目。経年で比較できるデータは着実に増えている。令和4年10月からの改組で大学教育創造センター、アドミッションセンター、学生総合支援センターが改編統合され、新たに「学び創造センター」となった。「学び創造センター」には、学生の主体的・能動的な学びを支援する組織でありたい、新たな学びを生み出していく創造的な組織でありたいという想いが込められている。これまで大学教育創造センターが実施していた学修成果の可視化に関る調査の結果は、学生支援策の策定や入試戦略を検討する際に更なる活用が可能になる。GPS-Academicの活用はこれからますます深化していくだろう。